博多祇園山笠にまつわる植物のはなし(2018.6.29)

 昨年ユネスコ無形文化遺産に登録された「博多祇園山笠」が,7月1日から始まります。
 福岡・博多のまちには,7月1日の13台の飾り山笠公開を皮切りに,
順次,7台の舁(か)き山笠も立ち並びます。
 山笠見物は,重さ1tにもなる山笠を26人の男衆で勇壮に舁(か)く姿ももちろんですが,
流ごとに趣向を凝らした豪華絢爛(ごうかけんらん)な山笠の「人形飾り」を見比べることも,
面白さの一つです。
 その人形飾りには,ほぼ決まった「植物」が使われます。
 
 まず,「スギ」と「タケ」です。
 山笠の台の上,人形飾りを四方から囲んでいる壁を「杉壁(すぎかべ)」といいますが,
杉の葉と竹で巧みに作り上げています。


 「スギ」も「タケ」もお馴染みの植物ですね。


 「スギ」は成長が早く加工しやすいという点で,日本においては,古くから木材として利用され,
日本人の文化と生活に深いかかわりを持っているといえます。(小学館「園芸植物大辞典」)
 一方で,「スギ」といえば「花粉症」を思い出して「鼻がムズムズしてくる」という方もいらっしゃるかもしれませんが,
スギ林に関して,林野庁ホームページによると
『スギ花粉症は、国民の3割が罹患していると言われ、社会的・経済的に大きな影響を与えています。林野庁では、「伐って利用」、「植替え」、「出させない」の3本の斧からなる花粉発生源対策を推進し、春季の国民の健康で豊かな生活・経済活動を回復するよう努めていきます。』 

 福岡市植物園では,スギ以外のスギ科の植物として,メタセコイヤやコウヨウザン,ラクウショウなども植栽しています。
 余談ですが,篠栗町の九州大学福岡演習林にあるラクウショウの林は,
根元が太く円錐状の独特の樹形と池の中からニョキニョキと生えている姿が,
最近,「幻想的」「ジブリの世界みたい」「インスタ映えする」など話題になっていますね。

 次に,いわゆる竹は,イネ科タケ亜科の約45ある属に多くの種があり,
山笠に使われる竹は,おそらくマダケ属の「マダケ」や「モウソウチク」「ハチク」など,
身近によく見られ,竹材や食用として利用されている種だと思われます。
(もし間違っていたらご指摘ください。)


 次に「マツ」です。
 舁き山笠の見送り(後ろ側)には,たいてい「松」が飾られています。
 マツ科マツ属には90種ほどあり,日本では6種が知られていますが,
その中でも,山笠には「雌松(めまつ)」を使います。これは「アカマツ」のことです。
 なお,「雌松」に対して「雄松(おまつ)」とは「クロマツ」のことです。
 これらは樹皮の色の具合からそう名付けられていますが,
アカマツは一般的に内陸に,クロマツは海岸に多く見られます。
 福岡市植物園には,テーダーマツやドイツトウヒ,ダイオウショウなど,普段身近では見られないマツ科の種も植栽しています。



 最後に「牡丹」。これもほぼ必ず飾られます。
 なぜ山笠には必ず牡丹が飾られるのか,これには,こんないわれがあります。

 『豊臣秀吉の博多復興「太閤町割り」の際,筑前国や豊前国の豪族たちは秀吉のもとに参じたが,肥前国の岸獄(がんごく)城主,波多三河守(はたみかわのかみ)は秀吉が自分の妻に横恋慕していると聞き参集せず,滅ぼされた。そのため,三河守は亡霊となり「切木(きりご)の牡丹」に化けたという。博多の人々は彼を哀れみ,山笠に必ず牡丹の花を飾り供養するようになったという。(ふくおか文庫「博多山笠げなげな読本」)』
 
 その「切木の牡丹」とは,唐津市肥前町切木の個人のお庭で栽培されている,佐賀県の天然記念物のボタンです。
 福岡市植物園のボタン・シャクヤク園では,18種50株のボタンを栽培しており,こじんまりとしていますが,春のお客様の多い季節でも静かに鑑賞できる穴場スポットですよ。




(園長 井上)

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