~花緑の園~「日日のまなざし」No.002:ツユクサは巧みな戦略家(2022.7.5)
7月、梅雨明けとともに、夏の訪れを告げるかのように、道端に鮮やかな青色の小さな花が目立つようになりました。
それは、皆さん良くご存じの「ツユクサ」です。
和名:ツユクサ(露草)
学名:Commelina communis
ツユクサ科ツユクサ属
ツユクサの花は一日花。
たった一日、いえ、早朝咲いて、昼過ぎには萎むため、半日程の儚い命。
花の寿命が短い分、自然界でいかに子孫を残していくか、過酷な自然界を生き抜くツユクサの巧みな戦略には、驚くべきものがあります。
今日は,そのツユクサの生き残り術をのぞいて見たいと思います。
◆目立ってなんぼの色作戦
★草花の生存戦略の重要なポイントは『受粉』
そのためには、いかにして花粉を運んでくれる昆虫を誘い込むかがキー!
「まずは目立たなくちゃ!」とばかりに、ツユクサの花は、青紫の花びらに黄色のおしべの色使い。なんとも目立つコントラストではありませんか?
色相環で見ると、「青」と「黄色」は捕色の関係。
服装で言えば、メリハリの効いたコーデといったところ!
では、他の色と比べてみましょう。
どの色の組み合わせが一番目立つと思いますか?
反対色のピンクも目立ちますが、虫を呼び込むネオンサインとしては「黄色」の方が遠くからでも目立つ気がしますね。
◆海老で鯛釣る!作戦
植物の花粉は、虫たちのエサでもあるため、虫たちも大好き。
でも誘い込んだ虫たちに全部食べられてしまっては、受粉どころではない。
そこで、ツユクサは、3種類もの雄しべを用意して、周到な作戦を立てています。
①花のど真ん中にある目立つ黄色の雄しべは、虫を呼び込むだけの花粉のない見せかけのオブジェ。そう、ニセモノ(仮雄しべ)です
②誘い込んでも食料がないと、虫がすぐに立ち去ってしまうので、ニセモノの花粉の近くにちょっとだけ花粉を持つ雄しべを用意しています
③そして、虫が少量の花粉を食べてる間に、虫のお腹に花粉がたっぷりとつくように花粉をたくさん持つ本物の雄しべは、その時を待つのです
このようにツユクサは、花粉のオブジェで誘い込んだ虫に、少量の花粉を食べさせる代わりに、花粉を巧く運ばせようと画策しているのです。
◆リスクヘッジもバッチリ!
短命な花だけに、虫たちの力を借りることができず、受粉せずに花が終了!
なんてことにもなり兼ねない。虫たちの力だけに頼っていては、受粉も種もできず、結果、子孫が残せない。そう思ったのか、なんと!ツユクサは、最終兵器ならぬ「自家受粉機能(自分の花粉で受粉する)」を備えているのです。
花がしぼむ頃(昼頃)になると、
自分の本物の雄しべをクルクルと巻き寄せて、
自分の雌しべと受粉します
花がしぼんだあとは、花が開いているときは
長く伸びていた雌しべも雄しべも、
しぼんだ花の中にきれいに
収納されてしまいます
植物としては、できることなら他の花の花粉で受粉し、自家受粉は避けたいはず。
なぜなら、自家受粉では、その個体の遺伝子を残すだけになってしまい、複雑な自然環境を生き残るために必要な遺伝子の多様性は得られないからです。
でも、全く種が残らないよりはマシと、最終手段に出るわけですね。
さて、ここまでツユクサの自然界を生き残る巧みな戦略を見てきましたが、いかがでしたか?
万葉集にも登場するツユクサ。
少なくとも1000年以上我々の傍らで親しまれてきた植物ですが、過酷な自然界を生き抜くために編み出された戦略であるとはいえ、こんなにも凝りに凝った花の構造をしているとは驚かされます。
雑草という植物はないと、某植物学者が言っていましたが、雑草といわれる道端の植物にも名前があり、ドラマと知恵があります。一度、手に取って観察してみてくださいね 。
【解説員Fu】
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