万葉集で詠われたワスレグサとは?(2021.6.27)

 

ヤブカンゾウ 万葉名わすれぐさ
 野草園にヤブカンゾウ【薮萱草】(ユリ科)の八重咲きオレンジ色の花が咲いています。  中国原産ですが我が国には古く渡来したと考えられおり、「史前帰化植物」と呼ばれます。中国ではこの花を身につけると憂いを忘れるといわれていたことから、古くはワスレグサ【忘れ草】と呼ばれ、万葉集に詠まれています。

「忘れ草 我が紐につく香久山(かぐやま)の 古(ふ)りにし里を 忘れむがため」

                          (大伴旅人 巻3-334)

 なおワスレグサとは、このヤブカンゾウをはじめノカンゾウやキスゲ類などユリ科ワスレグサ属Hemerocallisの総称と考えられています。

 ということで、あらためて「万葉集」とは約千三百年前に作られた我が国最古の歌集ですが、集められた約四千五百首のうち植物を詠んだ歌、あるいは植物と関係のある歌(枕詞など)は約二千首、取り上げられている植物は約百七十種類といわれており、万葉人にとって植物が身近な存在だったことがうかがえます。

 初夏に園内で見られる植物で、万葉集で詠われたものを紹介します。

アジサイ 万葉名あぢさゐ
「あぢさゐの 八重咲くごとく 八つ代にを いませ我が背古(せこ) 見つつ偲(しの)はゆ」
                            (橘諸兄 巻20-4448)
  和名は「集まった藍色の花」を意味する「あづさい(集真藍)」がなまったものといわれています。
ネムノキ 万葉名ねぶ
「昼は咲き 夜は恋ひ寝る 合歓木(ねぶ)の花 君のみ見めや 戯奴(わけ)さへに見よ」
                             (紀郎女 巻8-1461)
 古名のネブは、日が暮れると葉が合わさって閉じてしまう様子を「眠る」に例えたものといわれています。

 万葉集には野草も多く詠われています。
ツユクサ 万葉名つきくさ
「朝(あした)咲き 夕(ゆうへ)には消(け)ぬる月草(つきくさ)の 
   消(け)ぬべき恋も 我(あれ)はするかも」(読み人知らず 巻10-2291)
 古くは染色に用いられたことからツキクサと呼ばれていましたが、万葉集では染めた色が変わりやすいことから、多くは「移ろふ(心変わり)」の意味に用いられています。
ヒルガオ 万葉名かほばな


「高円(たかまど)の 野辺(のへ)のかほ花 面影に 見えつつ妹(いも)は 忘れかねつも」 
                          (大伴家持 巻8-1630)
 古名のカホバナはヒルガオの他、カキツバタやムクゲなどを指すとの説もあるそうです。
 あと意外なものでは、先日「バスから見える花」で取り上げたアカメガシワも詠われています。
アカメガシワ 万葉名ひさぎ
「ぬばたまの 夜のふけゆかば 久木(ひさぎ)生(お)ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く」 
                             (山部赤人 巻6-925)
 万葉の時代には、アカメガシワの大きい葉に食物をのせ、神前に供える風習があったことからサイモリバ【菜盛葉】の別名もあったそうで、暮らしに密着した存在だったことがわかります。

 万葉集は、私たちの祖先が暮らしていた約千三百年前の時代の生活や文化を知る絶好の資料といわれています。万葉人たちがどのように植物とともに暮らしていたか、当時の様子を想像しながら観察すると楽しさが増すのではないでしょうか。
                                  (解説員)
















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