甘い香りの正体は?(2021.10.28)
この時期、水生植物園の芝生広場寄り園路や花木園のアジサイの横を下っていく園路を歩いていると、どこからか甘い香りが漂ってきます。「焦げた醤油?」「砂糖醤油?」といった香りです。特に早朝、それも雨上がりの時などが強く香ります。花(これは雌花です)は地味ですが、ミニバナナのようなおもしろい実をつけます。
実は、この甘い香りの正体は、カツラ【桂】(カツラ科)の落ち葉から出ているものなんです。カツラは北海道から九州まで広く分布する落葉樹で、この香りについては古くから全国的に知られていたので、「こーのき(香の木)」、「しょーゆのき(醤油の木)、「まっこのき(抹香の木)」などと各地で呼ばれていたそうです。(日本植物方言集成:八坂書房2001)私はこの香りを嗅ぐと「放生会(ほうじょうや)の綿菓子の香り」を思い出してしまいます。
さて、この香りの正体はというと、葉の中に含まれる「マルトール(maltol)」という天然有機化合物なんです。おもしろいのは、木についている緑色の葉や黄葉して落ちたばかりの落葉を揉んでも香りはなく、トップの写真のように黄葉の時期に落葉のマットができた状態になって香りが出てきます。ちなみに、マルトールという成分名は、焦がした麦芽(maltモルト)に由来するとのことです。
また、この時期はカツラの葉の美しい黄葉が楽しめますが、落ちた葉を観察してみるといろいろな黄葉があることがわかります。 すっかり黄色になったものから緑色が残っているものまでありますが、これは、実は秋になったら葉が黄色くなるしくみを表しています。
モミジなど赤くなるほうの紅葉は、秋になると葉の中に「アントシアニン」という赤色色素が蓄積されて変化しますが、黄色くなるほうの黄葉は、秋になると葉の中の緑色色素の「クロロフィル」が分解されて、もともと葉の中にあった黄色色素の「カロテノイド」が現れて変化します。紅葉は「アントシアニン」の足し算、黄葉は「クロロフィル」の引き算と覚えてください。
春はハート形の葉の新緑が鮮やかです。四季折々にいろいろな表情を見せるカツラをどうぞお楽しみください。
(解説員)
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